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くこさん家のメモ書き
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クラレットとメルロのはなし
#妖精の森
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傲慢は、森に閉じこもっては一つだった頃、生に憂んだ以前と同じだと考えました。
身軽になったのだから、己一人だけが死ぬこともないのだから、それなら好きなところで好きなことをしよう。
ワタシには何だってできるのだから。
そうやって何百年か、ひさしぶりに帰ってきた森で傲慢は強欲に、
―貴女が連れてきたものたちが好き勝手している 責任をとりなさい
と、言われ、しぶしぶ様子を見に行きました。
確か森から出始めの頃、故郷に住めなくなったと嘆いていたやつらを見かけて連れて帰ってきたような気がするな…などと思いながら、その村の住民たちに、この森はお前たちのものではないのだぞと説きました。
その村には恩人だったはずの傲慢のことを覚えているものはもうほとんどいませんでしたから、怪しいものを見る顔をし、忠告も意に介しませんでした。
諦め顔で村の外れから住民が好き勝手森を開墾しようとする様子を見ていると、すぐそばに小さなかたまりがいることに気がつきました。
小さなかたまりは汚い身なりの子どもでした。
ボロボロのバケツに入った汚い水を手でゴミを除けながら必死に飲んでいました。
子どもの手ではうまくゴミがとれず、口に含んでしまってはぺっぺと吐き出す様子を見て、お節介心が湧いた傲慢はバケツの水を魔法で濾過してやりました。
子どもは綺麗になる水を見て、それまで重そうだったまぶたを開き傲慢の手もとをじっと見つめていたかと思うと、さっと走り去り、すぐにちがう汚い水入りバケツを持って戻って来ました。
暗褐色に見えた目は光が当たると金にも見えるハシバミ色、キラキラと輝く目は、もう一度今のを見せて!と訴えていました。
簡単なものだしもう急ぐ用もないからと、子どもがせがむままに何度も何度も同じ魔法を使う様子を見せてやりました。
日が暮れると傲慢はもう一度住民たちに忠告をしてまわりましたが、誰も聞くものはいませんでした。
忠告をしながら、傲慢は村中のたべものやのみものに自分の作った薬をそっと混ぜて回りました。
朝になり、皆が起き出し食事をし、仕事を始めるために外に出る、そのときに傲慢は最後の忠告をしました。
―この森はお前たちのものではない、忘れてしまったか?
村人が鼻で笑って通り過ぎようとした瞬間、たくさんの黒い火柱が立ちました。
残念だ、と言いながら傲慢がさっきまで村人だった火柱たちを撫でると火の勢いは大きくなって家や荷車やいろいろなものに燃え移り、村だったものは大きなひとつの黒い火の海になりました。
鎮火するまで待たないとなあ、と時間を潰す算段を立てていた視界に昨日見たばかりのハシバミ色が見えました。
―お前、今朝は何も口にしなかったのか?
ほんのすこし憐れみの混じった声をかけると、子どもは小さく首を振りました。
―おしえてもらったから
主語がわからずに傲慢が首をかしげると、子どもは持っていたバケツの水にひとつかみ土を入れて汚したあと、昨日何度も何度も傲慢が見せた魔法を再現してみせました。
傲慢は笑いました。
ひとしきり笑ってなるほどなあとうなずいたあと、大きな黒い火の海になった彼の村だったものを指さして、
―お前は『これ』をしたのがワタシだともうわかっていると思うが、お前はどうしたい?生きたいか、死にたいか?
ハシバミ色の目は黒い火の海を背に微笑む傲慢をまっすぐに見て、金色にキラキラしていました。
―あなたみたいになりたい
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#妖精の森
傲慢は、森に閉じこもっては一つだった頃、生に憂んだ以前と同じだと考えました。
身軽になったのだから、己一人だけが死ぬこともないのだから、それなら好きなところで好きなことをしよう。
ワタシには何だってできるのだから。
そうやって何百年か、ひさしぶりに帰ってきた森で傲慢は強欲に、
―貴女が連れてきたものたちが好き勝手している 責任をとりなさい
と、言われ、しぶしぶ様子を見に行きました。
確か森から出始めの頃、故郷に住めなくなったと嘆いていたやつらを見かけて連れて帰ってきたような気がするな…などと思いながら、その村の住民たちに、この森はお前たちのものではないのだぞと説きました。
その村には恩人だったはずの傲慢のことを覚えているものはもうほとんどいませんでしたから、怪しいものを見る顔をし、忠告も意に介しませんでした。
諦め顔で村の外れから住民が好き勝手森を開墾しようとする様子を見ていると、すぐそばに小さなかたまりがいることに気がつきました。
小さなかたまりは汚い身なりの子どもでした。
ボロボロのバケツに入った汚い水を手でゴミを除けながら必死に飲んでいました。
子どもの手ではうまくゴミがとれず、口に含んでしまってはぺっぺと吐き出す様子を見て、お節介心が湧いた傲慢はバケツの水を魔法で濾過してやりました。
子どもは綺麗になる水を見て、それまで重そうだったまぶたを開き傲慢の手もとをじっと見つめていたかと思うと、さっと走り去り、すぐにちがう汚い水入りバケツを持って戻って来ました。
暗褐色に見えた目は光が当たると金にも見えるハシバミ色、キラキラと輝く目は、もう一度今のを見せて!と訴えていました。
簡単なものだしもう急ぐ用もないからと、子どもがせがむままに何度も何度も同じ魔法を使う様子を見せてやりました。
日が暮れると傲慢はもう一度住民たちに忠告をしてまわりましたが、誰も聞くものはいませんでした。
忠告をしながら、傲慢は村中のたべものやのみものに自分の作った薬をそっと混ぜて回りました。
朝になり、皆が起き出し食事をし、仕事を始めるために外に出る、そのときに傲慢は最後の忠告をしました。
―この森はお前たちのものではない、忘れてしまったか?
村人が鼻で笑って通り過ぎようとした瞬間、たくさんの黒い火柱が立ちました。
残念だ、と言いながら傲慢がさっきまで村人だった火柱たちを撫でると火の勢いは大きくなって家や荷車やいろいろなものに燃え移り、村だったものは大きなひとつの黒い火の海になりました。
鎮火するまで待たないとなあ、と時間を潰す算段を立てていた視界に昨日見たばかりのハシバミ色が見えました。
―お前、今朝は何も口にしなかったのか?
ほんのすこし憐れみの混じった声をかけると、子どもは小さく首を振りました。
―おしえてもらったから
主語がわからずに傲慢が首をかしげると、子どもは持っていたバケツの水にひとつかみ土を入れて汚したあと、昨日何度も何度も傲慢が見せた魔法を再現してみせました。
傲慢は笑いました。
ひとしきり笑ってなるほどなあとうなずいたあと、大きな黒い火の海になった彼の村だったものを指さして、
―お前は『これ』をしたのがワタシだともうわかっていると思うが、お前はどうしたい?生きたいか、死にたいか?
ハシバミ色の目は黒い火の海を背に微笑む傲慢をまっすぐに見て、金色にキラキラしていました。
―あなたみたいになりたい
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